中村 雄祐
(東京大学大学院総合文化研究所・教養学部助教授)

「2001年女性のための識字教育センター(LRC)機能強化ワークショップ」はACCU・ユネスコ青年交流信託基金により2001年2月13日から24日までの12日間開催された。ACCUとネパールLRCの共催,ユネスコ,ネパール教育省,日本ユネスコ国内委員会の協力により開催され,アジア各国にある11のLRCから24名が参加した。文中のMANGOとはACCUとユネスコが共同で開発中の学校外教育地理情報システムの略称。

2月にネパールで開かれた『女性のための識字教育センター(LRC)機能強化ワークショップ』に参加してきました。2月15日から22日までという短い期間ながら,アジア各国の識字・学校外教育分野の専門家と一緒にワークショップに参加し,また,カトマンズ近郊のLRCやコミュニティ学習センターも案内していただき,とても充実した時間を過ごすことができました。青柳識字協力課長より,部分参加ながら日本からの参加者として印象を聞かせて欲しいという依頼を頂きましたので,お礼もかねて以下にレポートしたいと思います。

まず簡単な自己紹介ですが,私自身,途上国の識字や学校外教育の分野で実務者と連携しつつ大学で調査・研究をしており,ACCUの識字協力事業委員会の委員もお引き受けしています。しかしながら,これまでのところ仕事場はもっぱらアフリカや南アメリカばかりで,アジアの識字・学校外教育活動とはほとんど縁がありませんでした。ですから,ACCUは私にとってアジアの学校外教育のフロントラインに触れる機会を与えてくれる日本では数少ない貴重な組織で,LRCの報告書などいつも興味深く読みながら,できれば一度現場の活動を見てみたいと考えていました。今回,そんなラブコールが叶い,ワークショップで私が最近ボリビアで現地NGOと共同でやっている調査プロジェクトの中間報告を行い,後半のMANGOセッションに参加させていただけることになったわけです。

アジアとラテンアメリカ
-アイデアのキャッチボール
さて,ワークショップでの私の最初の課題はボリビアの活動報告でした。このプロジェクトはボリビアの地方都市の低所得者対象の工芸教室において,工芸教育と識字教育を有機的に組み合わせた,より学習者の役に立つようなプログラムを作ろうというもので,まずは昨年度から3年計画で編物教室の生徒,先生たちと一緒にいろんなプランを試みているところです。今回のワークショップでは,パワーポイントを使いながらプロジェクトの概要とこれまでの経過を報告しました。

報告の前は,同じような分野で活動しているとはいえ,ボリビアの報告に対してアジアの人たちからどんな反応が得られるのか,楽しみ半分不安半分だったのですが,実際には質疑の時間はもちろん,その後のワークショップの合間にも色々な質問,意見,助言,そして激励をもらい,とても参考になりました。特に,ディスカッションの途中に「これは君たちがボリビアでやっているプロジェクトのアイデアとも関係があるんじゃないかな」などと積極的に自分たちの問題関心に引き付けてボールを投げ返してもらえたのはうれしい経験でした。地域それぞれに状況はもちろん様々なのですが,読み書きに関わっているという点においては,やはりどこかで問題意識を共有しているということを実感できたのは大きな収穫だったと思います。

ペン&ノートとインターネットの距離
-これからの学校外教育の課題
問題意識の共有という点でもう一つ印象的だったのが,今回のワークショップの中心テーマである情報技術(IT)への取り組みでした。ITへの対応は日本でも大きな問題となっていますが,もはや途上国も最近の情報革命と無縁ではありません。もちろん,ペンとノートという簡素なITの威力は決して軽視できませんし,貧困層にとってはそれらをしっかり使いこなすことで得られる効果はまだまだたくさんあると思います。とはいえ,ややもするともっぱら市場原理に則って普及し社会格差を広げかねないITが,公共的な組織・ネットワークを通じて導入されることには大きな社会的意義があると思います。ワークショップ参加者自身,学習者との距離をどう解消するかという難問をたえず気にかけながらも,MANGOセッションに取り組む姿勢はとても真剣なものでした。今回のワークショップは,彼らのみならず私自身にとっても,えてしてイメージばかりが先行しがちなITの学校外教育にとっての意義を,具体的な活動を通じてきちんと考えるための貴重な機会となったと思います。

 スケジュールの都合上,ワークショップの最終日まで参加することはできませんでしたが,参加者からの「ボリビアの報告書を楽しみにしているよ」という激励の言葉を受けて東京に戻ってきました。青柳課長は「中村さんのアジア識字デビューは成功だったね」と冗談めかして言ってくれましたが,たくさんの刺激とともに大きな宿題ももらったように思います。今回の経験を足がかりに今後はより積極的なアイデアのキャッチボール,さらには活動の共有につなげていきたいと思っています。ACCU,そしてネパールをはじめとする参加各国の皆さん,どうもありがとうございました。そして,これからもよろしくお願いいたします。