国際協力事業団(JICA)との協力も3年目を迎え,本年の出版技術研修はアフリカ地域からブルキナファソ,ケニア(2名),太平洋地域からはフィジー,ナウル,パプアニューギニア,それにアジアのマレーシア,フィリピン,タイをあわせ合計9名の研修生を招いて,10月1日から27日までにわたり開催された。
出版編集を学ぶ
 今年の技術研修は各国の編集者を対象に,デジタル時代を見据えて,基本の企画編集から最新のDTPソフトの体験までを含めて行われた。凸版印刷をはじめ国内の出版,印刷関連企業の協力を得て,講義と実習に加え,見学,京都への視察等,多彩な内容となった。
 講義では,企画,編集,著作権などが取り上げられたが,研修生が特に関心を示したのは,日本の出版についてだった。日本語での出版物の数の多さに驚嘆し,コミックの隆盛に興味を示し,現在の読書低下への対策を自国の現状にも照らし合わせて質問するなど,活発な討議が続いた。コース前半のまとめとして行われた企画編集の実習は,各々の出版企画をもとに全員が批評しあうものだったが,各国の文化的視点や技術的問題点も明らかにされ,具体的な効果があげられた。
DTP体験実習
 第2週目には,2日間にわたり,デザイン,画像処理ソフトとDTPソフトを用いて,自国の出版状況と自身の紹介ページを作成する実習が行われた。DTP実習は,例年研修生から熱望されながら参加者の技術レベルの差や,帰国してからどの程度生かせるかに疑問もあり開催が難しかったものである。今年は技術習得はめざさず体験レベルまでとし,サンプルレイアウトを用意するなど初心者でも対応できるように準備して,レベルに応じて講師の助けを借りながらデザインしてもらうことで成果をあげた。作成ページは一冊にまとめてオンデマンド印刷され,最終日に研修生に配付された。
 DTP実習は研修生の関心をもっとも集めた時間ではあったが,DTP化の推進のためには,訓練を積んだ編集者やデザイナーはむろんのこと,周辺機器の準備とそれらの専門家,また電気などインフラの整備が不可欠である。さらに,今まで以上に関係者の相互の意思疎通が重要になってくることなどが,講義ではくりかえし指摘された。また一方で,技術の発達により今までの出版の課題が解決に向かう可能性もある。新しい技術に踊らされるのではなく,冷静な目で状況に見合った技術導入をはかることがこれからの出版にはいっそう必要になるだろう。
日本と世界の専門家との交流を通して
 日本で研修を行う利点の一つは,最新の設備や具体的な作業状況が見られることである。出版社への訪問では,編集の現場で編集者やデザイナーと意見を交わすことができ,印刷会社では,自国と比較しながらパソコンのOSやソフト,印刷機やスキャナーなどにも興味がつきないなど,講義で得た知識を実際に確認して内容を深めることができた。京都では,歴史的な視点や中央とは違う見地からの出版文化が関心をよんだ。
 今回の研修では,集まった国々の出版水準の格差が大きいことが心配されたが,そのことが逆に相互の情報交換を促した面もある。自作の教材をコピーして配付するしかないというブルキナファソの深刻な現状は35年前に出版技術研修コースが始まったころの多くのアジアの国々が直面していた問題でもある。一方で,東南アジア諸国の技術的進歩は目覚ましく,民間出版社も力をつけてきているのが感じられた。そういう中で,国同士の意見交換が討議を通して活発に行われたことも成果の一つと言える。
 今回の研修を通して,100年以上にもわたって日本が培ってきた出版技術から参加者が多くを学んだことは無論であるが,それに加えて,国をこえたネットワークも大きな財産になった。通信技術の発達により,瞬時にほしい情報にアクセスできる時代である。本研修で得た知識や技術,そしてネットワークを帰国後どのように生かしていくか,次代の出版をになう研修生の今後の活躍に期待したい。

(『ユネスコ・アジア文化ニュース』335号より)