2002年12月3日から3日間,2002年ACP評価企画会議が東京の日本出版会館で開催された。ACP(アジア太平洋地域共同出版事業)では,日本を含む21か国が参加しており,各国1か所ずつある責任機関が,マスター版制作および普及のその国での中心となっている。今回の会議には,18か国の責任機関の代表,または責任機関から指名された専門家と,オブザーバーとしてフィジーの南太平洋大学の代表が参加した。

 編集者,作家,詩人,翻訳家,国立図書館の館長など,本や読書推進の世界で活躍する方たちが集合した今回の会議の目的は,ACP事業の総括と今後の方針,2001年に刊行した『MEET MY FRIENDS ! 』の評価,次作のテーマを決めること,の3つだった。
ACPの30年,そしてこれから
 この事業の開始当初の目的は,「良質の本をアジアの子どもたちに数多く提供すること」であった。そこには,アジア地域において,児童図書が極度に不足しており,特に自国の文化を扱った本の出版が遅れているという背景があった。その原点は,現在ではどのような状況にあるのか。
 会議で改めて明らかになったのは,総体的に子どもの本をめぐる状況はかなり改善されているものの,一方で地域内,また国内の都市と地方の格差が広がっていることだ。これからはどうやって読者である子ども1人1人,特に地方に住む子どもの手に渡るようにすることができるかが,ACPの課題であり,成功のカギになるという認識が共有された。
 児童図書の作家の不足については,フィリピンの代表が自国で成功例を紹介し,「70年代当時は,多くの国で子ども向けの本といえば欧米,あるいは日本の本の翻訳ものに頼っていたのが,ACPを一つの契機に,地元の作家が徐々に育ってきている」と語った。ACPのマスター版制作では,各国が地元の作家・イラストレーターを起用することが大原則なのだ。
 自国の文化を扱った本が徐々に増えているとしても,アジア太平洋の域内の文化を並べた本は依然として少なく,文化を共有する媒体としてのACPの本の価値は他にあまり類をみない。ACPの環境の本に触発されて,南太平洋12か国が本『珊瑚礁』を共同制作した。数年前から企画し,最近ようやく刷り上がった実物を手に,フィジーから参加した南太平洋大学代表がプログラムの広がりを紹介した。
好評な『MEET MY FRIENDS !』
 「平和の文化」国際年(2000年)を記念して制作されたこの本は,住まい方,朝のお祈り,市場,食事など,アジア太平洋域内の日常的な場面を子どもが友だちに語りかけるかたちで紹介していて,細密なイラストを見ているだけで楽しくなるものに仕上がっている。各国のこの本への評価は,概してたいへん高く,スタイルもまちまちな文章とイラストを統一感のあるものに仕上げている点が特に好評だった。複数の国が,「ACPの全作品の中で一番優れている」とコメントしていた。
 この本は,現時点でベトナム語,ペルシャ語が完成しており,タイ語,インドネシア語,パシュトゥ語,ダリ語版の制作も進行中だ。また,日本語版も2003年はじめに東京書籍から刊行される予定だ。
「『口承および無形遺産』と平和」の本の制作へ
 30作目の本のテーマとして,各参加者が推薦したものには,「平和」「相互理解の推進」「寛容さ」「多様性の中の一体性」など,様々な言葉で表現されたものの,自己と他者への理解や思いやりを育むものに対するニーズがとても高かった。このことは,グローバリゼーションが進み,また紛争が各地で表面化している今,この地域のもつ,宗教的,社会的,文化的多様性を反映するものでもある。
 活発な意見の交換の結果,『MEET MY FRIENDS !』で扱った日常生活の様子から,もう一歩踏み込んだ,身近に伝わる言い伝えや,踊り,工芸技術といった無形遺産をモチーフに,異文化への理解を促進する本を制作することで合意した。
 ところで,会議の最終日は,今年のイスラム教の断食月ラマダンの最終日と重なった。日中は昼食はもちろん,水もとらずに過ごしていたイスラム教徒の参加者たちに,他の参加者一同を代表してカトリック信者であるフィリピンの参加者がお祝の言葉を贈り,会議の幕を閉じた。

(『ユネスコ・アジア文化ニュース』336号より)