インドネシアのクリス
 

インドネシアのクリス(keris)は、独特な左右非対称の短剣です。武器であると同時に霊的な物でもあるクリスは、しばしば不思議な力を持っていると考えられます。知られている最古のクリスは1360年頃に作られたもので、東南アジア全体の島々から伝播したと考えられています。

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クリスは通常刃が細く、根元は幅広い左右非対称の形になっています。刃にはいくつかの金属が使われていて、それによりパモール(pamor)と呼ばれる独特な「波紋のある」外見が生まれます。鞘は木製のものが多いのですが、象牙や、なかには金で出来たものもたくさんあります。クリスの芸術的価値は、ダプール(dhapur)(およそ150種類のバリエーションがある刃の形とデザイン)や、パモール(60種類もある合金による刃の模様)、それぞれのクリスの年代や起源を指すタング(tangguh)に見られます。刃は、刃物師(empu)が複数の鉄鉱石やニッケル隕鉄を層状に重ねて作ります。比較的短い期間で作られる刃もあれば、伝説に残るような武器の中には完成までに数年を要したものもあります。高品質なクリスの刃は、鉄が何十、何百もの層になり、極めて精巧に処理されています。刃物師は文学や歴史、超自然などにも造詣があり、職人の中でも高い評価を受けています。

クリスは日常的に、そして特別な式典などにおいて身につけ、家宝の刃は世代から世代へと受け継がれていきます。男女両方が身につけますが、女性用のものは小さめです。クリスは豊かな精神性や神話性を展開させ、装飾用や神秘の力を持つお守り、武器、神聖なる家宝、宮廷兵の付加的な装具、式服のアクセサリー、社会的地位の表示、勇気のシンボルを表すものとして用いられています。

1990年代まで、ジャワにおけるクリスの製作活動は、経済的な困難や社会文化的価値の変化により、ほとんど休止状態でした。しかし、それを懸念したクリスの専門家たちのおかげで、伝統は甦りつつあり、クリスの技術は再び高められました。

過去30年にわたって、クリスは社会における社会的・精神的な重要な意味合いを失ってました。伝統的な方法で高品質なクリスを積極的に作っている誉れ高い刃物師はいまも多くの島にいますが、その数は急激に減っており、彼らにとって、技術を継承すべき後継者探しはますます難しくなっています。